ふぁみ☆すぴ!! しょーと・すとーりー ◆こより編◆



「あ〜、これにて今日のHRはおしまい。はい、お疲れちゃん」
 終わりのチャイムと同時に教室を出て行く先生。
 席を立ち、放課後の予定を楽しそうに話し始めるクラスメイト。
 そんな風景を見ながら、私は一人、帰りの支度をしていました。
 あ、別に仲間外れにされてるワケじゃないんですよ?
 ただ今日は、ちょっと予定があって……
「あ、こよりちゃん。今日は委員会ないの?」
「うん。だからまっすぐ帰ろうかなって」
 声の聞こえた方に振り向いてみると、スセリちゃんがニコニコと微笑んでいました。
 その後ろには、シャロンちゃんとユキちゃん。
「ねーねー委員長。予定ないならカラオケいかない?」
「今日はスセリも行くって。だから行こうよ〜」
 カラオケかぁ……いいなぁ。私も行きたいなぁ。
 おさげで眼鏡な私ですけど、別に性格が暗いとか、つきあいが悪いってわけじゃないんです。
 カラオケも歌うことも好きですし、みんなと遊ぶのだって大好き。
 でも、ついてないなぁ。よりにもよって今日だなんて。
 残念だけど、今日はお誘いを断らなきゃ……

 って、再び顔を上げてみると。
「委員長、行かないか? 俺、委員長の歌とか聞いてみたいし」
「うむっ。委員長がどんな歌を歌うのかも気になるしな」
 スセリちゃんの後ろに二人の影。市ノ瀬君と、パムさん。
「ひあぁ!?」
「うぉ? どうした委員長?」
 あ、あはは。見た瞬間、身体がびくんって後ろに下がっちゃった……
 いきなりということと、この二人がいるということで2重にビックリ。
「どうしたの、こよりちゃん?」
「シンイチが突然立っていたら、誰だってビックリするに決まってるだろう?」
「おいおい、俺はバケモノか? さすがにショックだぞ、それは」
「あ、あはは。そういうわけじゃないんですけど……」
 慌てて取り繕ってみるけど、隠しきれてないみたい。
 はぁ、どうしよう。この二人を見てるだけでドキドキが止まらない……
「あ、それでカラオケなんだけどさ。これから一緒に……」
「ご、ごめんね。今日はちょっとアルバイトがあって……さよならっ!」
「あ、ちょ、ちょっと委員長ー?」


 鞄を握りしめて、とぼとぼと一人で帰宅する。
 はぁ、またやっちゃった。普段から何度も自分に言い聞かせてるのに。
「いつになっても慣れないなぁ……」
 パムさんは魔王様で、市ノ瀬君はそんな魔王様を使い魔にしちゃった人。
 ワケありで、この二人の顔をまともに見られない私です……

 今までずっと、市ノ瀬君は酷い人だと思ってたんです。
 同じクラスだけど、一度も話したことのない男の子。
 学園はサボりがち。触るだけで女子は即妊娠……なんて凄い噂のある人。
 スセリちゃんは市ノ瀬君のこと、とても優しいよっていうけれど……
 噂を聞く限り、彼はもの凄く悪い人でした。
 だから今までは、遠くから見てるだけの人だったんです。

 そう、遠くからずっと見てました。
 いつの間にか、彼の姿を目で追うようになっちゃったんです。
 これが初恋、っていうのかなぁ……

 そしてパムさん。
 パムさんは魔界の王様……つまり魔王様。
 魔界は何よりも実力が重視される社会なんです。
 ですからその一番頂点、つまり王になっている人は、凄い人。
 私なんかが話しかけるのもおこがましいような人なんです。
 え? エルフなのに魔界に詳しすぎる?
 あ、あはは。それもちょっと、わけありで……

 ……とにかく。
 市ノ瀬君は、初恋の人。
 魔王パム様は、凄い人。
 こんな二人が並んでいたら、顔なんてまともに見られない。
 本当はもっと側に行きたいのに、恐れ多くてそれも出来ない。
 不思議なジレンマ。

 本当はもっと仲良くなりたい。
 立場とか気にせず、みんなでワイワイ出来るだけでもいいのに。
 一歩踏み出せないのは、立場のせい?
 それとも……私の体質のせい?


 不意に、ぽんっと叩かれる肩。
「やぁ、我が妹よ。悩み事かな?」
「えっ……お兄様?」
 顔を見上げてみると、気心の知れたバカお兄様の顔がありました。
 いつもニコニコしていて、この人には悩みなんてないみたい。
 二卵性の双子なのに、なんで私とはこんなに違うのかしら。
「こよりはこれから仕事かい?」
 わかってるクセに、こういう事を聞いてくるし。もぉぉぉぉ〜……!
「……ええ、そうです。どこかのバカ兄様の代わりですっ」
「バカとは酷いな。経営センスのある妹に立場を譲った、と言って欲しいね」
「ま、まぁ、それは否定できませんけど」
「だろ? それに僕は、女よりも男の子の方が好きなのさ。なのにあんなところで仕事をしていたら、発狂してしまうよ」
「だったら発狂しちゃえばいいんです! 萌えないBL!」
「おおう、今日はいつもより激しいね。学園でもそうしていればいいのに」
「えっ……」
「と。ひるんだ隙に、アデゥー!」
「あっ、こら待ちなさい! お兄様〜っ!」

 逃げるお兄様を追いかけるため、スカートの裾をひるがえして全力ダッシュ。
 だけどもう、お兄様に対する怒りは、いつの間にか消えていました。
 代わりに残ったのは、先ほど言われた言葉。

 『学園でもそうしていればいいのに』

 別に、学園では猫をかぶってる、ってワケじゃないんです。
 お兄様が何かヘンタイ的な事をしようとしたら、人前でも叩いてますし。
 だけど確かに、学園での私は引っ込み思案というか、勇気がないというか……
 そんな気も、確かにするんです。

 パム様は魔王様。市ノ瀬くんは、そのマスター。
 でも学園では、誰もそれを気にしている人はいない。
 なんで自分もそうなることができないの? って思っちゃうこともあるんだけど。


 私もそうなることが出来たら……もっとパム様と仲良くなれるかな?
 市ノ瀬くんの顔を、まっすぐに見ることが出来るのかなぁ……


【終わり】


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