戦うことは好きかもしれません。
リュセはおバカだから、考える事より、身体を動かす方がきっと得意なんです。
身体を動かすこと。つまり、戦い。
リュセが戦うのも……きっと好きだから。
ついさっきまで、そう思ってました。
でも、今は違います。
リュセ、真剣に悩んでいます。
目の前には人が倒れています。
さっきまでリュセと戦っていたオジサンです。
お父さんが言いました。リュセは魔王を殺すために生まれたんだって。
リュセは魔王を殺す者。このオジサンは魔王の一族。
だから、戦って、戦って、リュセが倒したんです。
だけど、思うんです。
リュセは本当に、これでいいと思っているのでしょうか……
「こ、小娘よ! なぜワシを殺す!?」
「ダメですか?」
「だ、ダメとかそういう問題ではないだろう!? 人殺しは犯罪です!
やっちゃダメ! お父さんに教わらなかったか!?」
「でもリュセは、魔王を殺す者だから……魔王一族は殺せと教わりました」
「よ、世も末だ……そんな教育、間違っているぞ!?」
「間違っているのですか?」
「よく考えるがいい、小娘! 自分の一族を殺されたらどう思うか!」
「一族……?」
「お父さんとかお母さんとか、まぁいろいろな人のことだ! 友達とかでもいいぞ!?」
「お父さん……友達……殺されたら……」
「たとえばワシが、お前のお父さんとかを殺したとすればどうだ!?」
「……そんなことはさせません。あなたを殺します」
「え、ちょ、そういう話じゃなくて、まっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
リュセは生まれてから時間があまり経っていません。
ですからまだ、何も知りません。何もわかりません。
それでも考えて、考えて、わかったことがあります。
人を殺すのは悲しいこと。殺されるのも悲しいこと。
リュセのお父さんや、せっかく友達になったシンイチ、それにパム……
その人達が殺されるのは、凄く悲しいことです。
そんなことは絶対に合ってはいけないと思うのです。
きっとそれは、魔王の一族も同じ。
魔王の人にも、お父さんやお母さんがいると思うのです。
友達もいると思います。
その人が殺されたら、きっとみんなは悲しむと思うのです。
そんなのって、行けないことです。酷いことです……
でも、リュセはどうしたらいいのでしょう?
リュセは魔王の一族を殺すために、お父さんに作られました。
リュセの使命は、魔王の一族を根絶やしにすること。
使命を果たさないリュセには、存在意義がないとお父さんは言ってました。
存在意義がない。つまり、消されてしまう。
そんなのはイヤです。せっかくみんなと出逢って、お友達になれたのに……
お腹が空いたとき、助けてくれたパム。
いつも面白いことをしてるのに、さりげなく優しくしてくれるシンイチ。
パンの美味しいスセリと、委員長や学園のみんな。
せっかく出逢うことが出来たのに、その人たちと会えなくなってしまうのはイヤ……
「リュセ……どうしましたか? リュセ……」
「あっ……お父さん……」
「行きますよ、リュセ。この地の魔王一族は滅びました。残るは地上だけです」
リュセはお父さんに逆らえません。
逆らったらきっと、すぐに消されてしまいます。
だけどこれ以上、魔王の人も殺したくない……
リュセはお馬鹿ですから、どうしたらいいのかわかりません。
リュセ……どうしたらいいですか……?
【終わり】
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